ビジネスの場面はもちろん、日常生活の中でも他者との間で見解や立場、目指すものなど様々な要因で衝突(コンフリクト)が起きます。時には、そのまま衝突がコンフリクトがエスカレートして正面からの真向衝突となって関係が空中分解することもあります。しかし、通常はどちらの当事者もそのような結末は望んでいることはなく、何らかの着地点を模索します。それが、いわゆる、交渉ということになります。
そこで、今回は代表的な衝突の解決アプローチである、競合的アプローチと協調的アプローチの二つについて書いてみたいと思います。
一つ目の衝突解決のためのアプローチは、「競合的アプローチ」と呼ばれるものであり、「競争的アプローチ」と呼ばれることもあります。これは、端的に表現すれば、勝つか負けるかの二者択一の考え方です。別の言い方をすれば、自分の考え、希望等の主張を押し通せるかどうかですべてを判断するような考え方です。したがって、譲歩や妥協はもちろん、調整や交渉の余地は基本的に無いということになります。主張が通ればもちろん100%の満足が得られますが、当然逆のこともあり得ます。
また、この競合的アプローチでは大きな問題が内在しています。それは、仮に何らかの決着がついたとしてもほとんどの場合、シコリやわだかまりなどの精神的な不整合が残り、関係の悪化を招きます。確かに短期的には100%を得ることができたとしても、トータルとしては失うものが少なくないということです。
そして、もう一つの問題は交渉等が決裂してしまう可能性があるということです。したがって、競合的アプローチをした場合には、自信の主張が通り、通らない、決裂の3つのパターンしかないということになります。単純計算で考えれば、何も得られない可能性が一番高いということになってしまいます。
このように考えれば、本当に譲れない、調整の余地が無いような特別な場合を除いて、競合的アプローチは可能な限り避けるべきであることが容易に理解できます。
これに対して、もう一つのアプローチは、「協調的アプローチ」です。この協調的アプローチは、競合的アプローチとは異なり、両者の主張を一旦同じテーブルに乗せて、協議によって着地点を見つける、または、作り出します。ただし、協議と言ってもどちらの主張に合わせるかの合意を得ることを目指すということも含まれますが、これでは、競合的アプローチの派生という面を否定できません。このようなアプローチでは、一方はハッピーですが、他方は妥協を強いられる可能性が否定できません。そして、このようになってしまう場合には両者の力関係が不均衡なことが多くみられます。しかし、これでは交渉が決着したとしてもシコリが残る懸念があります。
そこで、本来の協調的アプローチにおいて考えるべきは、どちらの主張を優先するかというような考え方ではなく、どう決着すれば両者の利益を最大化できるかという考え方です。場合によっては、両者の最初の主張とは異なる第3の案が最適という結論もあり得ます。このような場合の第3の案をBATNA(Best Altenative To a Negotiated Agreement:最適代替案)と呼びます。したがって、協調的アプローチではこのBATNAを見つける、または、創出することが一つの理想形であるとも言えます。そのためには、ZOPA(Zone of Possible Agreement:可能妥結範囲)を意識することも大切です。互いの主張が一見すると相反関係にあるように感じられても、多くの場合には全く接点が無いということは少なく、一部でも重なる部分があることがほとんどです。この重なる部分をZOPAと呼びます。すなわち、ZOPAを見出すことでそこを起点に着地点を生み出すというアプローチが可能となります。(BATNAやZOPAについては、別稿で書いていますので参考にしてください。)
ここまで読んでい頂いた方は、交渉において競合的アプローチと協調的アプローチのどちらを目指すべきかは容易に理解頂けると思います。交渉のあるべき姿は、win-winであるとも言えます。しかし、実際の交渉場面では、別稿でも書いている通り様々な要素や思い、こだわりなども関係するため思うようには進まないのも現実です。しかし、あるべき姿に近づけよう、より決着を得ようとする努力は必要です。