産学連携などの名のもとに大学と企業の共同研究が盛んにおこなわれています。そんな中で、共同研究まではいかないまでも、教授や准教授などその道の専門家と思われている人たちに情報収集や質問などの目的でヒアリングを行うことも多いと思います。
しかし、なぜでしょうか。色々教えては貰うのですが、なるほどと思うこともあっても、最終的にはピンとこない、実際には使えない、採用できないということが多々あります。
これにはいくつかの理由が考えられるのですが、その一つが
実経験の有無
であると言えます。
実は先日こんなことがありました。
あるテーマ(新規事業創出に関する内容)のセミナーの講師をしたときに、参加者の中にある大学の教授(経済学)がおられました。その方は、何度も途中で質問という形で発言されるのですが、実際には質問ではなく自身の知識を述べられているだけでした。もちろん、そういう意見も他の参加者にとっては情報ではあるので、ある程度は許容するのですが、その内容がピンとこないものでした。
「どこどこの社長に話を聞いたらこうやって上手く行ったと言っていた」
「それは古いモデルでこんな新しい理論が出ている」
「そのやり方は上手くいかないと聞いている」
という感じで、終始伝聞形式で、知識論だけを披露されていました。
「アイリスオーヤマはヒットを飛ばしているが最近は失敗も多い、社長に話を聞いたら、「自分が判断していた時は上手くいっていた、でも自分が引いてからは上手く行かないことが増えた。やっぱり自分が判断しないといけないと思っている」と言っていた」
と言われても、実は何の説明にもなっていないことに気付かれていないのが問題です。確かに、ヒットは飛ばせたかもしれませんが、経営的には失敗とも言えます。なぜなら、その社長個人に頼ってしまっているからです。企業とは継続させなければなりません。その社長が引退したら途端に業績悪化では経営者としては2流です。
また、話を聞いただけで、当然その場に居たわけではありませんから、最終判断がどういうプロセスでなされたのかも知らないでしょうし、当然ながらそこに至るプロセスもその後のことも知らないで、モノを言おうとしているところが問題です。
新しい理論にしても、良いものはどんどん取り入れればいいのですが、必ずしも新しい方が優れているとは言えませんし、自社の状況、目的にマッチするとも言えません。また、ある会社で上手く行ったやり方(失敗したやり方)が自社でも同じことが起きるわけではありません。
本や論文など知識として書かれている物を見ただけでは実際に使うことは困難です。実際に自分で経験して、その中から実践的知恵として理解しなければ役に立ちません。理論体系化は平均的基本知識を知るためには役に立ちますが、それが唯一の最適解というわけではありません。特に、経済学の世界は基本的に結果論から後付けで理屈を作るので、リアルの世界とのかい離が往々にして起こってしまいます。
なぜ大学教授等に話を聞いてもピンとこないのか、実務に使えないのか、ということを体現しているような状況でした。彼は、残念ながら知識としてはたくさん持っていましたが、実務に役立つ知恵は全く持っていなかったのです。実務はまさに机上では動いていません。やっていくなかで作り上げていくことばかりです。特に、新規事業創出などというような場合には理論通りにいかないことばかりです。
アカデミアの人達ももう少しその辺りを理解して、私は良く知っているという誤認を改善されるともう少し産学連携上手くいくのではないでしょうか。