ほぼ全てと言っても企業で、現場教育の基本としてOJTが用いられています。どうしても集合研修では部署ごとの実際の業務について教育することが困難であるということがこの背景にあります。しかし、そういったOJTを用いた現場教育において、残念ながらほとんど全てのケースで間違ったOJTが行われています。そのため、十分に学ぶことができず、知識もスキルも修得することができないまま、結局は自分一人で成長していくという状態になっています。
今回は、人材育成、特に現場教育において必要不可欠なOJTについて、現在行われているOJTの何が間違っているのか、どうすれば良いのかについて書いてみたいと思います。
まず第一の問題は、OJTの目標、ゴールが明確に定まっていないということです。どのような状態を目指すのか、すなわち、何を知識として得るのか、何ができるようにするのかを決めなければ、OJTの内容、方法が決まるはずがありません。にもかかわらず、現実のOJTでは漫然と日常業務を思いつくままにやっているだけになっています。最も良くあるパターンは、
- 指導者が実際にやって見せる
- 手順書等の資料を渡して読ませる
といったことです。そして、
「わかった?」
「分からないことはある?」
と聞いて、何も無ければ(大抵は、指導を受ける側は何も言いません)、
「じゃ、とりあえずやってみて」
というような進め方です。果たしてこれで学べるでしょうか、人は育つでしょうか。そして、挙句には半年や1年という一定期間が過ぎたら、有無を言わせずOJTは終了して、1人前として仕事をさせます。誰でも、決めた期間で1人前になれるんでしょうか、どんな人に対して決めた期間が育成ができるのでしょうか。
また、質問が出ないのは、本当に質問が無い、理解したからではなく、何を聞いていいか分からないからです。いったい自分は何を学ぶのかということ、目標が分からないからです。教育することの優先順位、学ぶステップなどが全て無視されてしまいます。
したがって、まずしっかりと明確に目標を設定することがまずスタートです。
次に重要になるのは、
- 何をOJTで伝えるのか
- 何を学ばせるのか
- 何を修得させるのか
という、言うなればOJTの本体となる内容をしっかりと考えることです。すでに、相手が知っていること、できることに時間をかけても無駄になるだけでなく、モチベーションも下がります。分からないこと、できないことを重点的にOJTで教育する必要があります。ここでポイントになるのは、現状把握、ベンチマークです。すなわち、何を知っていて何を知らないのか、何ができて何ができないのかを明らかにすることです。そうすることで、OJTの内容が決まります。すなわち、
OJTの内容=育成目標-現状
です。
また、OJTの方法も内容とともに重要です。多くの現場で行われているOJTは、前述の通り、
やって見せる ⇒ やらせてみる
の繰り返しです。しかし、これは大きな間違いです。これでは、どこがポイントなのか、どこが学ぶべきところなのかが全く分かりません。自転車に乗れない人に、いきなり自転車に乗っているところを見せて、さぁ乗ってみてと言っているようなものです。これでは、自転車に乗れるようになるはずがありません。
したがって、
学ぶ内容の説明
↓
見本を見せる
↓
再度の説明
↓
やらせてみる
↓
チェック
↓
再度の説明
↓
(やって見せる)
↓
やらせてみる
というサイクルの繰り返しが基本となります。そして、見せる部分も正しい手本であることはもちろんのこと、時には間違いの手本も見せることでより効果を高めることができます。
OJTという言葉があまりにも一般的になり、正しく理解しないまま実施されている現状を改善しなければ、伝えたいことは伝わらず、人を育てることはできません。そして、OJTのポイントはまだまだたくさんあります。それらについては、また別の機会に書いてみたいと思います。